ディジタル通信

各章で現れる用語をまとめました.主に電子情報通信用語辞典(コロナ社)から引用していますが,現在の実情に合わせて多少の改編を加えている場合もあります.それ以外は,国語辞書であるスーパー大辞林(三省堂)からの引用,または私の言葉による説明となっています.出典は明記していますが,著作物を写している訳ですので著作権的には多少の問題はあります.その辺りを意識して,あくまで個人の勉強のために役立ててください. (順次更新中

1章

ディジタル通信システムの必要性


通信
基本的には2点間の情報の伝達形式.情報理論では,情報源から送信機,通信路,受信機を通して通報受端に情報を伝えること.
情報
対象となる事物の性質,作用,意味などに関する知らせで,事物に関する知識の不確定さを減少させるもの.
メディア
一般的には,音,光,電波,電線など情報を伝達する媒体,あるいはテープやメモリディスクなどの情報を記憶する媒体の意.一方,人間の機能を増幅するための手段や器具はすべてメディアである,というマクルーハンの考え方も認められつつある.情報通信の世界では,人間が情報を伝達,蓄積,さらには加工するために利用する手段や方法の総称になりつつある.
大きく三つの使われ方が存在する.第一は放送,出版,情報など情報伝達にかかわる産業(伝達メディア),第二は文字,図形,画像,音声のような情報自身の形態(表現メディア),第三はアラン・ケイによるメタファ(たとえ)としてのメディアで,コンピュータをさす(メタメディア)
雑音
情報を増幅伝送するときに,その内容以外の,混入する信号.一般的には物理的な要因により発生する不規則な揺らぎを雑音とする,狭い意味で用いられることも多い.このとき,雑音は統計的変動に従う不規則なものとなる.
アナログ
連続的に変化する物理量を用いて表現されるもの.ディジタルと対比される用語である.(例)温度,電圧など.
ディジタル
離散的な数字・文字などの信号を用いて表現されるもの.
ディジタル通信
ディジタル情報を信号化して情報を伝達するシステム・方式の総称
優美縮退(漸次縮退)
性能劣化が避けられない場合にも,その劣化を出来るかぎり緩やかにとどめ,全体のシステムへの影響を最低限に抑えること.ディジタル伝送システム,ディジタル記憶システムなどにおいて,ビット誤りが多い条件下においても,限られた品質で音声・動画などの再生を可能にする技術.


2章

ディジタル通信システムの概略


情報源符号化
情報源からの出力をいかに少ない記号数で表現できるかを考えた符号語への変換.情報源の記号もしくは記号列から符号語への写像.符号器で行う処理を符号化と呼び,復号器で行う処理を復号化と呼ぶならば,決められた制約の条件において情報源からの出力をいかに効率よく表現し,かつ復号化できるかを考え符号化すること.
符号化する前の情報と符号化と復号化した後の情報の間に,ひずみを許す場合と許さない場合に大別できる.符号化する前と復号化した後の情報の間に,ひずみをほとんど許さないもしくは全く許さない場合を強調して情報源符号化と呼び,符号化する前と復号化した後の情報の間にひずみを許す場合を特に源符号化と呼ぶ場合がある.
記号(symbol)
有限個のものを互いに他と区別するためのしるし,通常,事象や関係に対応づけられて用いられる.
符号(code)
情報を表現する通報の集合に対し,あらかじめ約束された規則に従って対応づけられた記号列(符号語)の集合.
各記号列は1次元的に記号を連ねて構成される.符号を構成する個々の記号列を符号語という.例えば,プログラムを作るとき,命令や数値はキャラクタ(文字または数字)による符号語で表し,各キャラクタは機械の内部では,2進数字による符号語で表す場合が多い.コードともいう.
AD変換
電流,電圧などのアナログ量の信号をディジタル量に変換する行為.(1),(2),(3)の手順を踏む.(1)標本化:アナログ量を一定間隔の時間で標本化(サンプリング)する.(2)量子化:標本化したアナログ量をディジタル量に割り当てる.(3)符号化:割り当てられたディジタル量を交換伝送などに適した信号(符号)に変換する.
通信路符号化
m N x y m m(送信)ユーザのデータ を受信側で区別のつきやすい,長さ の入力列 に符号化してから通信路に送り,受信側では通信路出力 から を推定することにより,できるだけ正しく を伝えるようにすること.
ベースバンド
無線伝送方式に使用される変調信号の周波数帯.基底帯域ともいう.
変調
伝送しようとする情報を表す信号によって正弦波または周期的パルスなどの高周波電流または電圧の振幅,周波数その他に,時間的な変化を与える操作.
変化を与える対象が正弦波の無線周波電流である場合,その正弦波を搬送波という.また,情報を表す信号を変調信号という.さらに,変調の結果生じる信号(波)を被変調信号(変調波)という.
IF(中間周波数)
送信機や受信機の中間段階で用いられる送信信号あるいは受信信号の周波数を変換した周波数.
(佐波注釈)周波数の値が中間という意味ではないので注意する.intermediate は段階,場所,時間が中間であることを示す単語であり,値が中間なら middle や moderate を使うはずである.
RF(無線周波数)
無線通信の搬送波に使用される高周波の電気信号または電波の周波数.

3章

信号表現の基礎


スペクトル
可視光線,その他の電磁波を分光装置で波長順に分解したもの.
周波数スペクトル
信号を周波数分解して,それを構成する各周波数成分の大きさ(振幅値)を周波数の順に配列したもの.各周波数成分の電力を周波数の順に配列した場合は,電力スペクトルという.
電力スペクトル
ある信号の絶対値の2乗を周波数の関数として表したもの.時間信号の変換された周波数関数をX(f)とすれば,|X(f)|^2で与えられる.
電力スペクトル密度
fある周波数 を中心とした単位帯域幅(Hz)当りの電力を示す関数.
デルタ関数
単位インパルス.理想化されたインパルスで,単位面積(=1)をもったもの.衝撃関数ともいう.

4章

ディジタル信号の基礎


標本化(サンプリング)
連続関数として表現されたパターンを,離散的にとった標本点の値の集合によって代表させること.
標本化周波数
標本化周期(一つの標本から次の標本までの時間)の逆数.
エイリアシング(エリアシング)
アナログ信号を離散化してディジタル信号に変換するときに発生する現象.折返しともいい,これによって発生する誤差を折返しひずみ,折返し雑音という.
量子化雑音
アナログ量あるいは高精度のディジタル量を量子化したときに生じる誤差.元の情報源にこの誤差に相当する雑音が付加されたものと考えられることによる名称.
パルス符号変調(PCM)
アナログ信号を振幅値に応じたパルス列のディジタル信号に変換する変調.時間的および振幅的に連続なアナログ信号を,まず標本化によって時間的に離散化し,次に量子化によって振幅的に離散化し,さらにその量子化値に対応した2進符号を割り当ててパルス列として伝送や蓄積を行う.
パルス変調
パルスの振幅・幅・位相などを変化させることによって行う変調方式.



5章

ディジタル変調の基礎


変調
伝送しようとする情報を表す信号波によって正弦波または周期的パルスなどの高周波電流または電圧の振幅,周波数その他に時間的な変化を与える操作.

・変調の形式には,振幅変調,周波数変調,位相変調などがある.

・この場合の正弦波の無線周波数電流を搬送波という.

・情報を表す信号を変調信号という.

搬送波(キャリア)
変調される高周波電流または電圧.
シンボル(記号)
有限個のものを互いに他と区別するためのしるし.通常,事象や関係に対応づけて用いられる.
変調の場合,変調の状態を変化させる変調信号を区別するためのしるし.
包絡線
ある一定の条件を満たす一群の曲線に一定の曲線が接するとき,この定曲線を包絡線という.
複素包絡線
複素信号系列の振幅包絡線.
信号点
変調信号をその信号に適した直交関数系で展開し,その展開係数をユークリッド空間上の点とみなしたもの.信号点表示を利用することにより,信号設計・誤り率解析を幾何的に取り扱うことが可能となる.
信号点配置
ディジタル変調によるデータ信号(シンボル)点を2次元の複素平面上に表現した図.




6章

復調の基礎


復調
変調波(被変調波ともいう)から変調信号を取り出すこと.検波ともいう.
同期検波
変調された信号から変調波を検出する方法のうち,受信機側で搬送波と位相および周波数が一致した(同期した)信号を再生し,それと受信波とを乗積することによって変調波を検出する方法.
包絡線検波
振幅変調波の包絡線を取り出す復調.
周波数検波
周波数が変調されたFM波の受信機において,周波数変化に比例した電圧を発生させる周波数弁別器を用いて,被変調波の瞬時周波数に比例した信号を取り出し,FM変調波からベースバンド信号を抽出する操作.
遅延検波
ディジタル伝送システムにおいて,隣接するシンボル間の位相差を検出する方法の一つ.差動符号化された信号を検波するため,受信信号とそれを1シンボル時間長だけ遅延した信号の乗積で行う.
ベースバンド信号
搬送波または周期的なパルスなどを変調する信号または復調後の信号.すなわち伝送しようとする信号そのもの.
データ伝送においては,例えば符号0,1をそれぞれ異なる電圧や電流に対応させた信号をベースバンド信号と称する.
グレイ符号
2進符号の一種で,隣り合った2数の符号語が互いに1ビットだけ異なっていることを特徴とする符号.一般に計算には不向きであるが,アナログ量のディジタル表示のための変換に適している.
直交振幅変調(QAM)
ディジタル変調の一つ.位相シフトにより直交した信号を用意し,これらに振幅の変化を与えたあとの合成で,等価的に搬送波の振幅および位相を制御する.
同相成分
正弦波,余弦波の二つの直交した搬送波で変調される直交変調において,正弦波を基準とした場合に,正弦波が乗積される信号成分.
直交成分
正弦波,余弦波の二つの直交した搬送波で変調される直交変調において,正弦波を基準とした場合に,余弦波が乗積される信号成分.


7章

通信路の性質と復調性能


回折
見通し外または山岳などの背後において,散乱によらないで電波が回り込む現象.
(主に音)障害物による反射または媒質の不均一性による屈折によって,波面が変化する現象.
ガウス雑音
瞬時振幅の分布がガウス分布となる不規則な雑音.雑音が互いに独立なら多数の雑音の和として表されるとき,その振幅はガウス分布に近づく.電力スペクトルが一様なガウス雑音を白色雑音という.
白色ガウス雑音
各時間ごとに独立で正規分布に従う雑音.離散時間では共分散行列が対角行列で表現されるガウス過程であり,連続時間では超関数の意味でのブラウン運動の微分として表現される.白色ガウス雑音をもつ通信路は白色ガウス通信路と呼ばれ,その容量は平均電力制限と分散によって正確に表現される.
CN比
搬送波電力と雑音電力との比.通常はデシベル(dB)で表す.
ビット誤り率
通信路符号化において,メッセージがビット列である場合に,復号したメッセージ中の個別のビットに関する誤り確率.
シンボル誤り率(記号誤り率)
通信路符号化において,メッセージがビット列でなく二つ以上の値をもつ記号からなる記号列であるときに,復号したメッセージ中の個別の記号の誤りの確率.

8章

移動通信における通信路


シャドーイング
送信点か受信点のいずれかの移動に伴う平均受信電力の緩やかな不規則変動.それらの間に存在する多数の建造物や地形の起伏などの一部が電波を遮ったりすることによって生ずる.平均化の観測時間を移動距離で表すと搬送波の波長のおよそ100倍程度,変動の周期を受信点の移動距離で表すと数10メートル程度になる.平均受信電力のデシベル値はほぼ正規分布に従って変動し,その標準偏差は地形地物のマクロ的な構造によって異なるが,およそ6〜10dB程度.
フェージング
多重波の周波数がドップラーシフトされ,互いに強めあったり,打ち消し合ったりすることによって生ずる受信信号の位相と振幅の不規則な変動現象.送信点と受信点間に存在する多数の建造物などの電波の反射により多重通信路が形成され,送信点あるいは受信点のいずれかが移動することにもよる.シャドーイングの変動よりかなり緩慢である.移動通信ではフェージング変動の速さを表す量として,移動速度と搬送波波長との比で定義される最大ドップラー周波数がよく用いられる.移動方向から到来する多重波の周波数は最大ドップラー周波数だけ高く,後方から到来する多重波の周波数は最大ドップラー周波数だけ低くなる.それ以外の方向からの多重波の周波数のシフト量はそれらの中間である.なお,電波の反射源には自動車や歩行者なども含まれ,これらの移動によってもフェージングが発生することがある.
マルチパスフェージング
電波が反射,回折,散乱などによって,複数の経路を通って受信点に到来するときに生じる受信電圧の時間的変動.
レイリーフェージング
マルチパスフェージングの一つ.到来波の数が無限で各波の振幅が同程度,位相がランダムの場合,合成受信波の振幅変動はレイリー分布に従い,位相変動は0〜2πの間に一様分布することが知られており,この瞬時変動.一般に市街地における移動通信の伝搬特性はレイリーフェージングになる.
ダイバーシティ受信
フェージングの影響を軽減するため,電界強度またはSN比の異なる複数の受信信号を合成し,あるいは切り換えて単一の信号出力を得る受信方法.

9章

多重化と多元接続方式


全2重伝送
同時に双方向に伝送できる伝送方法.時間的に片方ずつ分離して双方向伝送を行うものを半2重伝送という.
複信方式
同時送受信によって,相互の通信を行う方式.
多元接続
複数の局が同時に通信するための接続方法.
ハンドオーバ
移動通信のセルラーシステムにおいて,通話を切断することなく一つの基地局から他の基地局へ呼を切り換える操作.移動機が通信する基地局を切り換える場合のほか,同一セル内において通信するセクタを切り換える場合にも用いられる.ハンドオフとも呼ばれる.

10章

スペクトル拡散通信の基礎


スペクトル拡散
原信号によりその占有周波数帯域幅より広い帯域をもつ拡散信号を変調,原信号のスペクトルを拡散し,狭帯域原信号を広帯域信号へと変換する信号変換.
スペクトル拡散通信
通信する信号に擬似雑音信号を乗算することによって信号の周波数帯域を数十倍に拡散して伝送する通信方法.擬似雑音符号で信号の周波数帯域を拡散する直接拡散方式と,一定時間ごとに搬送波周波数を変えて伝送する周波数ホッピング方式に大別される.

11章

誤り制御技術の基礎


自動再送要求
再送を行って受信データの誤りを訂正する誤り制御技術.ARQと略称される.通信システムにフィードバック通信路を設け,受信側で誤りを検出して送信側に再送要求を行う.伝送遅延量が変動し,誤り率の増加とともに大きくなるという欠点はあるが,単純な誤り検出符号を用いて高信頼度の通信を実現できる.
ハミング距離
ビット数が等しい二つの符号に関してそれらを桁ごとに比較したとき,対応する桁の符号が一致しないものの個数.
パリティビット
ビット列の各ビットの和が常に奇数または偶数となるようにビット列に付け加えられる2進数字.