ディジタル通信


前提

 文科省では,大学における1単位あたりに必要な学習時間は45時間と定めています.この学習時間には予習,復習,課題などの時間を含み,授業時間については,講義形式のものでは15時間としています.本学だけでなく,多くの大学では1科目で2単位付与することにしていますが,この原則に従えば1科目あたり90時間の学習(その内,授業は30時間)が必要ということになります.(実際には,授業の時間自体は90分(45分×2)ですから,これだけですと,1.5時間×15週 = 22.5時間しかありません.しかし,古くからの慣習で45分を1時間と解釈する単位時間という考えが許されているため,これを30時間と換算します.)授業が30単位時間ですから,残り60単位時間(45実時間),すなわち授業1回あたりに4単位時間(3実時間)分の予習,復習,課題等の自主学習を行うことが要求されています.

以上の前提を元に私の授業に対する考えを記します.

私は,本来講義形式(教員が話すのみ)の授業は好ましくないと考えています.最良の形式は毎回事前に教科書等で自主学習をしてきてもらい,授業では前半で試験や演習等を行い,後半でその解説を行う,ことだと思っています.そうすれば,授業中に寝たり内職をする暇などなくなり,授業に集中できますし,一度自分自身で考えているので,解説されれば理解も速いはずです.(皆さんがそうして欲しいのであれば,すぐにそうします.)とは言っても,工学系の科目では教科書を読んだだけでは理解できない概念や数式の扱いなども多いですし,最新の事例などは書籍化されていません.そして何より,そのような授業をすると,途中で単位取得をあきらめてしまう学生の数が多くなるため,妥協策として講義形式の授業を行っています.

 この講義では,講義内容に対する質問を積極的に受け付けています.また,講義自体のアンケート調査を行うこともあります.個別の技術的な質問事項は別のページにまとめますが,授業全般に関する要望に対して,私が回答した内容を以下に示します.

過去に受けた要望に対する回答

  • スライドの補足説明を黒板に書いてほしい
    • 私が用意しているスライドは,要点をまとめたノートでしかありません.本来であれば,君らが自分で作るべき内容です.黒板のみで授業をした場合では,スライド以下のことしか書けないでしょう.そのノートが既に手元にあるのですから,君らがノートにとるべきは,私が要点以外に話している具体的内容です.就職活動でも,社会に出てからでも,話だけからノートをとらなければならない場面は沢山でてきます.今から訓練してください.メモを取るべきは要点よりも具体的内容であることを覚えておくと,いつかためになると思います.本ページでは,色々な補足の説明も随時行っていきますが,分からないことは積極的に質問してください.
  • 黒板に光が反射して見えないことがあるので,カーテンを閉めてほしい
    • これは大変失礼しました.しかし,君らは言葉を話せるはずです.見えないのであればそう発言して構わないし(これは私語ではありません),窓ぎわのクラスメートに声をかければよいと思います.もっと言えば,見えなそうだなと思ったら事前に君らが閉めておけば良いのです.大人なのですから,それくらいのことは出来るでしょう?後になってから,そのようなことを言われても同じ授業を繰り返すことはありませんので,すべきことをしないことによって損をするのは君ら自身です.
  • マイクが時々聞こえなくなる
    • これは機器の問題ですので,私にはどうすることもできません.なぜ,途切れるのかは授業内容と関係するので,講義として説明します.途切れたときには話し直すようにしますが,一部だけだとそうしない場合もあるかもしれません.聞こえなかった場合には,その場で質問してください.
  • スライドの切り換えが早くて写しきれないことがあった
    • 授業を受けることはスライドを書き写すこととは違います.そのため,web上でスライドを見れるようにしてあるのです.事前に予習して書き込んでくればよいのではないでしょうか.
  • 説明が詳しいところとそうでないところがあったので差を埋めて欲しい
    • 授業の本質と関係ないところは,理解を難しくさせるだけなので簡単にしか扱わないこともあります.本当に知りたいのであれば質問してください.そのために質問フォームを用意しています.
  • 問題を増やして欲しい/講義を分かりやすくするには講義内で例題を解いて解く手順を教えて欲しい
    • PDFファイルを配布しているページから,各章の問題のページへいけますが,そこの問題は全て解いた上での話でしょうか.
    • そもそも,なんのために問題や例題が必要なのでしょう?日本の教育システムの弊害かもしれませんが,私には,そのような質問は学問を完全に誤解しているとしか思えません.私を含めて多くの大学教員は問題が解けるためにとか,試験で良い点がとれるためにという目的で授業をしていません.理解し身につけた知識を新たなところに応用できる力がつくことを望んで授業をしています.決して答えがある問題に正答できるためではありません.このような力がつけば結果的に問題にも正答できる(緻密さは必要ですが)と思います.
    • 授業が分かりにくいということであれば,私ももっと工夫しなければならないとは思いますが,視点を変えて「私の授業で理解できなかったことを理解せよ」という問題を解いてみてはいかがでしょうか.
    • 別ページにある問題集は,それらが全部正答できるのであれば,相当な理解をしていると考えられますし,学期末の試験なんてこれらから比べたら遥かに簡単です.それに考え方,理解の仕方が合っていれば,答が結果的に間違っていたとしても,私はそれを問題視しません.入学試験などのように定員があって,合格者数を制限しなければならないなら別ですが,合格者数を制限しなくても構わない試験で,重箱の隅をつつくような減点をしたって意味がないからです.日本の教育も徐々にそういう方向に向いていると思います.

 最後に,毎年,この講義では,3回目の講義を聞いて分からないと感じて,ギブアップしてしまう学生が多いようです.この回では,2年でのいくつかの授業(数値解析や応用解析)で既に勉強してきているフーリエ級数やフーリエ変換といった内容を扱います.それに「ディジタル信号処理」の授業でもフーリエ変換をやります.情報工学科のカリキュラム系統図は,学科のwebページに示してあり,ディジタル通信にはこれらを前提にすることが入学時から提示されています.このページが読めているなら,webページにアクセスできる能力はありますね?教員という立場からは必ずしも勧められるものではありませんが,ここここなどいくらでも見ることができるはずです.是非,予習・復習をし,それでも分からないことはどんどん質問してください.以下は,過去に3回目の講義で受けた要望です.

  • 専門書のようなスライドで理解しづらい/式が多すぎる
    • そもそも,この講義はディジタル通信という専門科目です.フーリエ変換を基礎から学ぶ授業ではありません.専門的な内容を学習するのに,専門書のようであったり,式が多いのは当たり前だと思います.3回目の内容はあくまで本来低学年でやっておくべきだった内容のおさらいなので,省略する部分も多いですしスピードも速いかもしれませんが,ディジタル通信としての多くの部分は大分噛み砕いて講義しているはずです.それでも分からないことは,どんどん指摘し質問をしてください.
  • 教員が知っていることや,当然のことでも生徒は知らないことも多いので,基礎的なことをもっと説明して欲しい/全くわからない等
    • 逆に私は,君らが高校までにどんな教育を受けてきて,何を知らないのかを知りません.100人いれば100通りの可能性があるのです.それを全部カバーする授業をすることは不可能です.授業を聞いていて全く分からないとか,全部分からないなどと言う人がいますが,分からないことを分からないと伝えることは悪いことではありません.しかし,どこまで理解し,どの部分が理解できないのかを言うことなしに,単に分からないでは,説明のしようがありません.同じ内容の授業をもう一度やることはありませんので,どの点が分からないのか具体的な内容の質問をしてくれないと君らが損をするだけです.
    • 少なくとも,私は毎回の講義にあたり,最低でも4,5時間の事前準備をしています.君らに4時間の予習をしなさいとは言いませんが,最低限のことはしていただきたいと思っています.その上で,本当に分からないことは遠慮なく質問してください.ただし,言葉は選んでください.私も感情をもつ一人の人間ですので,非礼な聞き方に対しては腹も立つし,回答する気もおこらなくなります.
    • もう一つ感じることは,言語力(日本語力)が不足している学生が多くなったことです.10年前には説明なしで通じた(専門用語でもなんでもない普通の)言葉が今は通じていないと感じることがあります.私が話している/書いている日本語が意図した通りに伝わっていない.逆に君らの書く文章の情報量がなさすぎる(もしくはそもそも文章になっていない)ため,何を意図しているのかが分からないことが非常に多くなってきました.そんなことでは,就職活動のときに困ると思います.実験のレポート等,日頃から意識してきちんとした文章を書きましょう.