第1回
今まで初回講義に対する質問は特にありませんでした.
第2回
- 高周波で動作するディジタル回路の問題を3点挙げていますが,実際,他の回路とどの程度違いがあるのかが疑問です.
- 例えばパソコンに使われているCPUを考えましょう.一昔前のCPUですが,Pentium 4 の Prescott と呼ばれるCPUは 3.8 GHz で動作するものは115 Wの電力を消費し,動作温度は 73℃ まで上昇します.一方,2.8 GHz で動作するものは 84 W / 68℃ です.これらは直接手で触ると火傷する温度です.ちなみに,情報工学実験で使うICは,動作周波数は精々 30 MHz くらいまでで消費電力は数十 mW です.
- アナログ通信,ディジタル通信はどのように使い分ければよいのでしょうか.
- ディジタルデータを扱うか,そうでないかしかないと思います.ディジタル通信ではアナログデータを(ディジタル化せずに)送れません.また,ディジタルデータはアナログ通信で送ることもできますが,誤りが増えるのでメリットがありません.
- ラジオのAMとFMの違いについて知りたい.
- 第5回のディジタル変調で扱います.ただし,アナログの変調方式は直接扱いません.概念のみとなります.AMだから音が悪いとか,FMだから音がいいとかではないことが理解できると思います.
- 冗長ビットが曖昧/余分なビットが増えると検出や訂正が困難になるのではないでしょうか?
- 通信路符号化については,第12回で扱います.冗長ビットとは文字通り,余分なビットということです.本来送るべきデータとは直接関係ない余分に付加するビットのことです.確かに余分なビットを送るので,その分,誤りが生じるビット数が増える場合もありますが,これら付加したビットの分も含めて,誤りを検出したり,訂正したりできます.一方,冗長ビットを付加しなければその仕組みすらありません.
- アナログ通信システムの場合,構成要素はどうなりますか?
- いい質問だと思います.p.2に掲載したブロック図の中で,ディジタル信号に由来するブロックは,送信機ではAD変換,情報源符号化,通信路符号化です.ですから,この部分を除いた部分がアナログ通信システムとなります.受信機では対応する部分を除いた部分となります.
- 有線通信が長距離通信に有利なのは分かったが,高速通信に有利な理由が分かりません.
- 無線通信は空間という媒体を通じて信号を送ります.空間を多くの人が共有して使えるようにするためには,使える帯域を制限したり,出力電力を制限する必要があります.一方,有線はその線が繋がっている人のみが占有可能です.したがって,広い周波数帯域が使用できます.高速通信を行うには広い帯域(ブロードバンド)が必要です.その理由は次回以降の講義で示します.
第3回
- 周波数スペクトル・電力スペクトル密度が分からない.
- 周波数スペクトルとは,信号の周波数成分を考えたとき,各周波数にどのくらいの大きさ(電気信号であれば電圧値)があるのかを表すものです.電力スペクトル密度/エネルギースペクトル密度とは,信号の電力やエネルギーが周波数についてどのように分布しているかを表すものです.単位は [W/Hz] や [J/Hz] ですから,1 Hz あたり何ワットまたは何ジュールあるかを表しています.ですから,全周波数成分を合計(積分)すると,信号のもつ電力やエネルギーそのものになります.ちなみに,電力の単位ワットは [J/sec] と書き直すこともできます.つまり,単位秒当たりのエネルギーが電力です.
- パーシバルの定理
- 上記が理解できれば,理解できるでしょう.同じ信号であれば,時間領域でエネルギーを計算しても,周波数領域でエネルギーを計算しても同じ値にならないと,おかしなことになってしまいます.パーシバルの定理はこれを数式で表しているだけです.
- P(電力)=V(電圧)I(電流) = V^2/Rなので(ただし,^2は上つきの2,すなわち2乗を表す),Vの2乗になることは分かるが,R(抵抗)が無いことが分からない
- 大変良い質問です.ここでP=VIといっている式は,直流回路で電力を求める式です(電圧も電流も変動がない一定値なので,平均もとりません).しかし,交流ではこのまま使えません.そもそも電(磁)波等で信号を送ろうとする場合,回路もありません.したがって,単に信号の電力を計算するときは,通常正規化して R=1 [Ω] としてVの2乗の平均値を電力とします.
- 周期信号(電力信号)/非周期信号(エネルギー信号)
- 周期信号とは文字通り周期をもつ信号です.同じ波形が繰り返し現れる信号です.前述の通り,電力とは瞬時振幅の2乗の平均値です.ですから,周期(繰り返しの現れる単位)ごとに平均を計算するとその値は一定になります.一方,非周期信号は周期がない(周期が無限大の)信号です.同じ波形はその瞬間にしかありません.電力の定義に基づき,1周期(すなわち無限大)で平均を計算すると値がゼロになってしまいます.したがって,信号の存続する時間範囲での積分値をもってエネルギーを定義するのです.
- 畳み込み積分がよくわからない
- 畳み込み積分のどの点が分からないのか不明ですが,式で示した定義そのものでしかありません.二つの信号の片方をずらしながら積分を行う操作です.概念としては,第4回の講義で図示します.
- 合成周波数が理解できない
- そもそも合成周波数という言葉を講義では使っていません.信号の合成とは単に信号を足し算する操作です.また,周波数の合成は複数の信号を乗算して,それぞれの信号の周波数の和の成分と周波数の差の成分をもつ信号を作り出す操作です.これはcos 2πf1t x cos2πf2t = 1/2{cos(2π(f1+f2)t )+ cos(2π(f1-f2)t)}で表せます.
- デルタ関数
- これはインパルス信号の式としての定義でしかありません.このような信号であると知るしかありません.積分をすると1になる性質を知っていることが大事です.
- sinc関数
- これも定義でしかありません.ディジタル通信の信号でよく使われる(現れる)波形ですので,知っておいてください.
- 帯域とは?
- 周波数の範囲のことを帯域と呼びます.また,信号のもつ周波数成分の周波数幅(範囲)のことを信号の帯域幅と呼びます.
- F 記号の意味
- フーリエ変換の記号をイタリック体の F で表します.関数 g( t ) のフーリエ変換は,F {g( t ) } と表します.ちなみにラブラス変換の記号はイタリック体の L です.
- 複素数の利点
- 信号を扱うときにはその信号の周波数成分を意識しなければならないことが度々あります.周波数には負の成分が存在するため,これをcos 等の実関数のみで扱おうとすると理論的に説明できない矛盾が生じます.そのために複素数を使う必要があるのです.これは利点ではなく必須なのです.それに指数関数exp(x)で扱うことで乗算を単なる加算で表わすことができ,計算が楽になることが多いのは利点でしょう.
第4回
- データサイズが分からない
- ディジタルデータの大きさ(単位は [bit] か [byte] または単に [B] )です.
- 講義最後の演習問題の一問目では,44.1 [kHz] で標本化,16 [bit] で量子化されたステレオ音声のディジタルデータについて,1秒間分のデータサイズを問いました.
- 解答としては,44100 [sample/sec] x 16 [bit/sample] x 2 (ステレオなので,左右二つのデータ)= 1411200 [bit/sec] としてデータレートが求められますので,1秒間のデータサイズは,1411200 [bit] となります.SI接頭辞を使って書くならば,1.4112 [Mbit] となります.または単位を [byte](または単に [B])で表すなら,1411200/8 = 176400 [B] = 176.4 [kB] と書いても良いでしょう.
- 10分間では,1411200 [bit] x 600 [sec] = 846720000 [bit] = 846.72 [Mbit],または,176400 [byte] x 600 [sec] = 105840000 [byte] = 105.84 [MB] となります.
- SI接頭辞に関しては,換算を誤解している人がときどきいます.SI単位の接頭辞では,k(k は必ず小文字)は 10 の 3乗,M は10 の 6乗です.1 [kB] = 1000 [B] です.一部のコンピュータ雑誌や Microsoft 製のOSの中などでは,ときに2進数を基準としてこれらの接頭辞を誤用し,1 [kB] = 1024 [B]としている場合(しかもキロを大文字のKで [KB] などと表示していることもある)がありますが,これは明らかに間違いです.
- 以下は,さらに知りたい人向けに書きます.純粋に2進数しか扱わない半導体メモリなどの会社では,そちらの方が便利なので,2進数を基準とした SI接頭語を意図的に使ってきた歴史があり,混乱を招く原因となっていました.1 [MB]と書いても,それがどちらの基準で書かれたのか分からないからです.そこで1998年より,SI接頭辞とは別に2進接頭辞が規定されました.これは,2^{10} (2の10乗)=1024 を単位として新たな記号の接頭辞を使うものです.1[KiB (キビバイト)] = 1024 [B] であり,1[MiB (ミビバイト)] = 2^{20} [B] = 1048576 [B] のように換算します.
- (データ/標本化)レートの意味が分からない
- 英語でレート(rate)とは,割合,比率という意味です.したがって,レートと名のつく用語の単位は何らかの比で表わされます.データレートであれば,データの速度(単位秒当たりに何ビット送信されるのか)ですので [bit/sec] または [bps] ですし,サンプリングレートであれば,サンプリングの速度(単位時間当たり何サンプルの標本をとるのか)ですから [sample/sec] = [Hz] ,移動速度であれば,単位時間あたりの距離ですから [m/sec] ,日米の為替レートであれば,[Yen/Dollar] となります.
- ちなみに,今説明したように基本的にディジタルデータのデータレートは [bit/sec] (読み方は,bit per second となるので,略して [bps] とも書きます)で表わすのが普通ですが,問題の解答に,[byte/sec] で答える人がときどきいましす.単位をきちんと書いてあれば,これでも間違いではありませんが,通常は [bps] となることを知っていてください.
- フィルタリングが分からない
- フィルタリングの何が分からないのか不明です.言葉としての意味なら,不要なものを取り除くことという意味です.標本化した信号から元の信号を取り出すには,低域通過フィルタ(LPF: low-pass filter)を通して不要な信号を除去する必要がある理由は講義中に説明したとおりです.
- 最も単純なLPFは,皆さんが情報工学実験でやったRC直列回路です.実験レポートで右下がりの周波数特性のグラフを書いたと思いますが(正の周波数部分のみ),下がりかたは緩やかだったはずです.この周波数特性図は,フィルタがどの周波数成分をどのくらい通すかを表しているため,このようなフィルタでは,ナイキスト周波数ぎりぎりでサンプリングを行ったとき,隣接するスペクトル成分をもつ信号の一部が通過してしまい,エイリアシングを起こすことになりますし,元の信号のスペクトル形状も崩れてしまいます.理想のLPFは矩形の周波数(通過)特性をもつものですが,これは実現不可能です.ですから,DA変換にはLPFの特性が大きく影響します.アナログ回路で精度の良い部品は価格も高くなりますので,LPFの精度を高くしようとすればする程,高額になります.
- ところで,R(抵抗)とか C(コンデンサ)でフィルタは作れますが,有線の通信をするときにケーブルの長さが非常に長くなったり,ケーブルに使われる金属によっては,ケーブル自体が R や C のようなインピーダンスをもってしまいます.すなわち,ケーブルを信号が通過するときに,信号の周波数成分が変わってしまうことがあるのです.前回,信号を扱うときには周波数を考えなければならない場面がよくあると書きましたが,こういう現象を解析するときにもフーリエ変換は有用なツールになります.
- 畳み込み積分
- 今回の講義で概念は図示しました.後は実際に手を動かして計算してみてください.その上で,何が分からないのかを質問してください.
- 量子化の範囲
- 質問の意図が良くわかりませんが,量子化レベル(電圧値)の最大/最小値をどのように決めるかということでしょうか.これは設計者が勝手に決めるものです.もはや,皆さんには何かをきちんと録音するという経験をしたことがないのかもしれませんが,録音をするときには入力信号のレベルを調整する必要があります.ディジタル録音ではとくにシビアです.例えば,±5Vの電圧を10ビットで量子化をするなら,10Vの範囲を1024通りの振幅レベルに分割することになります.このようなときに,入力信号の電圧が±1V程度の変化しかしないような信号を入力したら,せっかく1024通りのレベルがあっても,有効に利用されず3ビット程度しか使わないかもしれません.振幅の最大レベルを超えずになるべく大きくなるように入力信号電圧を調節する必要があります.
- 2値データを信号化する必要性
- 例えば,CD-ROMドライブでもハードディスクドライブでもいいですが,これらの機器ではデータを2値データとして保存します.このデータを何かにコピーしたり,別の機器に転送しようとしたりするとき,読み取り部分が読み取ったデータをどのようにケーブル(信号線)に流せばよいですか?信号化せずにはデータを移動できません.
- PAM信号
- 2値の矩形パルス信号では,一つのパルスで1ビットのデータしか表せません.量子化などのように複数ビットで一つの意味をもつデータを一つの矩形パルスで表そうとする場合には,振幅レベルを変えることで表現することしかできません.PAM信号は,まさにそのような信号です.
第5回
- 信号点配置の位相とビット列の対応のさせ方
- 今回の講義ではわざとこのことに触れていない(次回以降の内容です)のですが,この疑問をもった人はとても前向きに講義を受けている人だと思います.
- BPSKの信号点配置のスライドでφi=0 [rad] がシンボル 1 のとき,φi=π [rad] がシンボル 0 のときとなっているが,これはどのように決まったのか.
- 講義中にも言いましたが,これはどちらでもよいです.φi =0 [rad] をシンボル 0 ,φi =π [rad] をシンボル 1 としても構いません.また,φi =π/2 [rad] をシンボル 1 ,φi =3π/2 [rad] をシンボル 0 としても構いません.大事なことは,そのルールを受信機側も知っていることです.そうしないと,復調ができません.実際に装置化するときには,φi=0 [rad] をシンボル 1 ,φi =π [rad] をシンボル 0 とする方が設計が簡単になる場合がありますが,これも元のベースバンド2進信号の極性('0' を正の極性にするのか,負の極性にするのか)に依存します.
- ただし,事前に決める二つの位相はなるべく離れていた方がよいのは事実です.0 [rad] と 0.1 [rad] の違いを判別するより,0 [rad] と π [rad] を判別する方が簡単そうだと想像できませんか.理論的な理由は次回の講義の内容になります.
- 多値変調/QPSK/APSK
- QPSKや多値変調のどの点が分からないのか不明です.QPSKのQは講義で説明した通り,quadri- という4を意味する接頭語です.四つの位相状態をもつPSKがQPSK(または4PSK)です.ちなみに,他にも bi- (2) tri- (3) penta- (5) hexa-(6) hepta- (7) octa- (8) 等の接頭語もありますが,2進数(2のn乗通りを表現するとき)では,octa- 以外はあまり使いません.
- 2値ディジタル変調された信号では,'0', '1' の1ビットの情報を区別しなければなりません.ですから,振幅/周波数/位相の状態を変えることでそれを表現します.変調を考えるときには,同時に復調も考えなければなりません.二つの状態を区別できなければ,元の情報を取り出せないのです.
- 一方で,二つ以上の状態が表現できるなら,一度に複数のビットを送ることができるというのが多値変調の基本の考え方です.四つの位相状態を作れるのであれば,1シンボルの波形で一度に2ビットの情報を伝達できます.これがQPSKです.
- ところで,複数の状態の違いが区別できればよいのであれば,状態の違いを位相だけに限定する必要もありません.振幅で2通り,位相で2通り用意すれば,その組み合わせは,2x2=4通りの状態が作れます.これがAPSKです.
- PSK信号の数式表現/式が多すぎて理解しきれない
- 実際に自分で手を動かし計算して確認してみましたか?スライドを眺めているだけでは,理解はできないと思います.これらは,同じ内容を書き換えただけです.振幅を電力やエネルギーを使って表す過程は,講義内で説明しましたが,あとは三角関数の加法定理やオイラーの公式を使うだけです.実際に計算して確認してみてください.
- PSKの各種数式表現は理解できたが,それを振幅,位相に当てはめたときの考え方
- 質問の意図が分かりませんが,複素包絡線の考え方ということでしょうか.以下でまとめて回答します.
- 信号点配置と複素包絡線
- 包絡線(envelope)を純粋数学的に説明すると,曲線群のすべてに接して,しかもその接点の軌跡となる曲線のことを意味します.分かりづらいですね.数学者的な具体例を見ましょう.
- y = A cos(ωt)という正弦波に対する包絡線を求めましょう.曲線群ですから,ω を色々と変化させた場合.全ての曲線に接する接点の軌跡です.A cos(ωt) - y = 0 として,t について偏微分すると,その結果は -ωAsin(ωt) = 0 となり,これと A cos(ωt) - y = 0 との連立方程式を解き,t を消去します.すると答えは,y = ±A となります.すなわち,正弦波の包絡線は振幅値を A とした場合,±A ということになります.これで理解できますか.
- 一方で,y = A cos(ωt) という信号は,交流信号であり基本的に正の電圧と負の電圧は同じだけ対称に現れます.実際に電圧値の最大/最小値は,±A ですが,エンジニア的な考え方では,片方の大きさが分かれば両方分かるので,振幅値は「中央値からの振れ幅の最大値の絶対値」と定義し A だけで表します.ですから,エンジニア的な考え方では,包絡線は A と表します.これはどちらが正しいとか間違っているではなく,エンジニアは実際の物理現象を相手にするため実をとった考え方をしているというだけです.
- 同じことは正弦波という言葉についても言えます.実際,数学者の世界では,コサインは余弦と呼びます.であれば,y = A cos(ωt) は余弦波と呼ぶべきかもしれません.しかし,sin波もcos波も,開始時間(位相)が違うだけで同じものです.発振器に電源を入れた時刻により,sin波にもcos波にも見えますし,さらには,sin波はcos波で表すことができます.ですから,数式的につじつまが合い易い(もしくは扱い易い)cos波の方を正弦波と呼んでいるのです.数学者とエンジニアの考え方の違いです.エンジンの回転の様子を数式で表すのに,cosで表そうが,sinで表そうが「ある周期を持った回転」という事実は同じことです.
- 複素包絡線とは,エンジニアの世界でしか使わない言葉であり,これは包絡線を単に複素領域で考えただけのものです.y = Acos(ωt+φ) の複素表現は,Re{A exp(φ)exp(jωt)} となり,この場合,複素包絡線は A exp(φ)と定義します.これは周波数成分 exp(jωt) を除いた直流部分です.ですから,スライドでは等価低域信号と書いています.
- 信号点配置に入る前に,まずは次の質問に答えましょう.
- 複素包絡線はグラフの正負につくので,±A exp(jφ) ということになりますか.
- 数学者的な考え方をすれば,そうかもしれません.しかし,上で述べたように複素包絡線という言葉はエンジニアの世界でしか使いません.ですから,A exp(jφ) だけで考えるのが正しいです.実際φ=0 なら,複素包絡線は,A になりますし,φ=π なら,複素包絡線は,-A になり正負どちらも表せます.
- 複素包絡線A exp(jφ)は傾き0の直線ということなのでしょうか.
- 実軸の領域だけ(複素軸を考えない)ということであれば,上で述べたようにy =Acos(ωt) の包絡線は A ということになりますので時間軸に対して傾き0の直線です.しかし,複素包絡線のように実軸と複素軸と時間軸を同時に考えると3次元の領域になりますので,単純ではありません.時間軸に対しては傾き0と言えるでしょう.
- 信号点配置
- 以上を踏まえて信号点配置とは,複素包絡線のとり得る値を複素平面上に表したものです.スライドでは半径 A の円を描いたので,誤解されたかもしれませんが,実際にはスライド上の緑色の点の部分だけです.位相のとり得る状態とそのときの包絡線振幅を示しています.
- しかし,講義内でも説明したように,もっと単純にとらえて被変調信号の振幅とそのとり得る位相(角度)の関係を複素平面上に表したものと考えても間違いではありません.
- 以上で理解できたでしょうか.次回の講義を聞いても分からない場合には,また質問してください.
- ちなみに,スライドでは I-Q 平面と書いています.inphase(同相)成分とは,cos成分と同相の成分という意味です.3章で示しましたが,cos成分は実数軸に相当します.一方,quadrature(直交)成分とは,cos成分と直交する成分(つまりsin成分)を指し,これは虚数軸に相当します.オイラーの公式でも,sinの項が虚数になっていますね.
- carrier
- どの部分がわからないのか不明です.情報を乗せる目的で使う正弦波のことを搬送波(carrier)と呼んでいるだけです.
- 信号の複素表現
- これは3章のおさらいの部分のことですか?どの点が分からないのでしょうか.ここではオイラーの公式を実際に観測できる物理現象とリンクさせて説明しているだけです.複素数は概念しか教えない人も多いみたいなので,実際の物理現象とも矛盾していないことを説明したかっただけですが,教え方が様々なように理解の仕方も人によって様々でしょう.このスライドが理解できなくてもオイラーの公式を(覚えるではなく)使えるようになってくれればそれでよいです.
- どうしてボーレートはシンボルレートと置き換えるようになったのか/シンボルについて
- 使われない言葉の説明に時間を割くのはもったいないので,授業では詳しく説明しませんでしたが,ボーレートという言葉の使い方がそもそも間違っており,誤用が増えたためだと思います.
- 変調の速度(1秒あたりの変調の回数)の単位は,ボー [baud] という単位です.フランスの電信公社の技術者の名前にちなんでつけられました.
- 前回の回答で,レートという言葉について説明をしました.忘れた場合は読み直してください.そもそも変調の速度の単位が [baud] なのに,それにレートをつける言葉の使い方がおかしいことは理解できますね.データ速度レートとかデータレートレートなどと言っているようなものです.
- BPSKで 1 [baud] の速度でデータを送信したとき,ビットレートは 1 [bps] となりますし,QPSKで 1 [baud] の速度でデータを送信したときのビットレートは 2 [bps] となります.2値変調の場合には, [baud] と [bps] は同じ値になりますが,多値変調では違う値になります.多値変調が使われだしたとき,混同してどちらにも [baud] を使う人が出てきたのも別の理由としてあると思います.
- 一方で,[baud]は変調の速度しか表しませんので,ディジタル変調の1波形で表わせる最小データ単位を別に定義する必要がありました.変調の最小データ単位にはシンボルという用語が使われていましたので,ビットレートと同じ流儀でシンボルレートと言えば,誤解も誤用も少ないということなのだと思います.単位は [symbol/sec] です.
- 多値変調で伝送速度が k 倍になったり,帯域幅が 1/k になる理由
- 上記の[baud]の説明は理解できたでしょうか.正しい用語で書き直します.BPSKで 1 [symbol/sec] のシンボルレートでデータを送信したとき,1シンボル中には1ビットのデータが含まれるのでビットレートは 1 [bps] となります.一方,QPSKで 1 [symbol/sec] のシンボルレートでデータを伝送したとき,1シンボル中には2ビットのデータが含まれるのでビットレートは 2 [bps] となります.QPSKでは k=2 であり,伝送速度が2倍になっています.ですから,シンボルレートが同一であれば,多値変調にすることでビットレートは k 倍にできます.
- 次に別の例を考えます.QPSKでビットレートを 1 [bps] となるようにするには,シンボルレートを 0.5 [symbol/sec] とする必要があります.つまりビットレートが同一であれば,シンボルレートは 1/k にできます.
- 以上を踏まえると,多値変調にした場合,シンボルレートを保つ場合にはビットレートがk 倍になり,ビットレートを保つ場合には,シンボルレートが 1/k 倍になります.あとは,これらの関係を帯域幅と関連づければ良いだけです.
- 搬送波に乗せるデータは,基本的に非周期信号になる(送るデータが周期信号である可能性は限りなく低い)ため,被変調信号も基本的には非周期信号になります.ところが 1 シンボル区間のみに着目すると正弦波になります.つまり,矩形パルスと正弦波(搬送波)を乗算した波形になっています.時間領域での乗算は周波数領域では畳み込み積分の関係ですね.したがって,被変調信号の周波数スペクトルは,正弦波の線スペクトルと矩形パルスのsinc波形型のスペクトル(課題でやりました)の畳み込み積分,つまりは正弦波の周波数のところにsinc波形スペクトルが現れることになります.
- ここで,sinc波形スペクトルの中央部分の幅(通常,これを信号の帯域幅と定義します)は矩形パルスの時間幅(=シンボル時間)と逆比例します.したがって,シンボル時間がk 倍になれば帯域幅は 1/k になるし,シンボル時間が 1/k 倍になれば,帯域幅は k 倍になるということです.これで理解できましたでしょうか.これ以上詳しい説明は大学院での講義の内容になります.是非進学を考えてください.今,知りたければ,ここを参照してください.
- 電波時計はなぜASKなのか.
- 電波時計に関しては,私にはわかりません.ある方式が規格に採用されるには,色々な要素があります.特許を持っている企業にしてみれば,それを使って欲しいと願うでしょうし,逆に特許料を払いたくない企業にしてみれば,それを回避するために別の技術を必死に開発する場合もあるでしょう.業界内で大きなシェアを持ち強い立場にある企業もあれば,弱い立場にいる企業もあります.したがって,必ずしも優れた技術が規格に採用されるとは限りません.国益になると思えば政治的判断が加わる場合もありますし,業界全体の発展を考えて,特許料を放棄する企業もあります.規格にはそれぞれに色々な背景があります.自分で調べてみてはいかがでしょう.結果を教えてください.
第6回
- グレイ符号の並び方は,他の順番では駄目なのか.
- よい質問です.グレイ符号はベル研究所のフランク・グレイが開発した符号であり固有名詞です.ですからグレイ符号と呼ぶ限りは他の順番はあり得ません.しかし,この回答は質問の意図とは違うかもしれません.日本語を正しく使ってください.
- 本来の質問の意図は,おそらくこちらだと思いますが,グレイ符号に属さない他の符号で隣接する符号のハミング距離が1となる符号が一定のルールの基に作れるなら,それは使えるでしょう.しかし,私はそのような符号を知りませんし,(グレイ符号の順番を巡回させたものや並び順を反転させたものはグレイ符号に含むと考えた場合),それ以外には実際に作れないと思います.
- 参考までに自然2進符号からグレイ符号への変換は以下のルールで機械的にできます.
- 自然2進符号の最上位桁から順に1であれば残り下位桁を反転,0であれば下位桁を変化させない.例えば,自然2進数の '1011' をグレイ符号に変換すると,最上位ビットは1ですから,まず '1100' になります.次に2桁目は1となるから '1111' となり,3桁目も1となるので,最終的には '1110' になります.
- FSKが信号点配置で表せない理由がよくわからない
- 信号点配置とは,前回述べたように複素包絡線の振幅と位相状態の組み合わせパターンを示すものです.FSKの複素包絡線は A exp(j 2πfi t ) となります.これを複素平面上に表そうとすると,時間の変数 t がありますので,シンボルの状態は半径 A の円周上を左右に回転してしまい,特定のパターンが存在しません(無限のパターン).ですから,FSK では信号点配置が示せないのです.
- PSKの同期検波における低域フィルタの出力は,1周期の倍数で積分されるのか.
- 例えば,PSKの搬送波周波数に 100 MHz を使うとしましょう.簡単のために振幅を A = 2 とすると,乗算器の出力は,1 + cos(2π200000000t ) となります.低域フィルタは積分器であると説明しましたが,積分の時間範囲はシンボル時間で決まるので,必ずしも搬送波周期の整数倍にはならないかもしれません.では実際に積分をしてみましょう.仮にシンボル時間が 1 sec であるとすると,cos の積分は,sin ですので,cos の項の積分は [1/2π200000000 X sin(2π200000000t )] = -1.2e-16 となります.10の-16乗のオーダーですから,これはゼロと考えてもよいでしょう.
- 実際には一周期の時間間隔もっと短いので,周期の整数倍の積分間隔でなくても,限りなくゼロになります.
- ASK,FSK,PSK の同期検波では,多値変調の場合でも cos 2πft (搬送波)を乗算すればよいのか.
- 良い質問です.この内容は学部の範囲を超えているので,講義では2値の場合しか示しませんでした.
- ASK,FSK では多値数がいくつの場合でも,搬送波と同一周波数,同一位相をもった正弦波を乗算すれば復調できます.
- ただし,多値PSK の場合にはこれでは復調できません.例えば,QPSK を考えましょう.この場合,受信信号は,A cos (2πft + φi ) と表せます.ただしφi ∈ {π/4,3π/4,5π/4,7π/4} とします.ここで cos 2πft のみを乗算して復調した場合,乗算器出力はA/2 (cos φi + cos(4πft + φi ) となり,フィルタ出力は A/2 cos φi となります.cos π/4 = cos 7π/4 = 1/√2 また,cos 3π/4 = cos 5π/4 = -1/√2 となるので,このままですと,π/4 と 5π/4 または,3π/4 と 7π/4 の違いを区別できません.これは信号点配置を考えると分かりますが,(複素軸上では異なる値をもつのに)実数軸上でこれらの信号点は同じ値を持ってしまいます.
- ですから,多値PSKの場合には,信号を二つに分岐させて,片方に cos 2πft ,もう一方に sin 2πft を乗算し,実数領域,複素領域それぞれで判定して,それらの判定の組み合わせで最終判定を行います.これは5章でやったように,QPSK信号が A cosφi cos2πft - A sin φi sin2πft と表わせることからも理解できるかと思います.計算上どうなるかは,各自で確認してください.
- 信号点が実数軸のみに存在する ASK と違い,APSK (QAM) や PSK では,複素軸上も値をもつため,sin 成分での処理も必要になります.
- FSKの受信方式がよくわからない
- 非同期検波の正負判定の部分
- これらはFSKのものですね.FSK では複数の周波数を使いますので,帯域通過フィルタで,周波数 f0 や f1 の成分に分けます.今,シンボルが周波数 f1 で送信されているなら,f0 の帯域通過フィルタの出力は(信号がないので)ゼロです.FSKでは,ある瞬間にはどちらかの周波数でしか送信していないのですから,片方のフィルタ出力は必ずゼロになるのです.ですから,正負判定直前の加算部分の出力は,0 - A = - A または A - 0 = A の状態になるのです.であれば,正負の判定だけでどちらの信号なのかを判定できます.
- 16QAMの信号点配置のやりかた
- 各種変調方式の信号点配置
- OOK や 8PSK については説明不要でしょう.分からなければ,前回の回答をよく読んでください.それでも分からなければ,どの点が分からないのかを明確にした上で,再度質問してください.
- QAM(quadrature amplitude modulation)とは,APSK の一種です.しかし16QAMの信号点を別の角度から眺めると,cos(I軸)成分,sin(Q軸)成分それぞれで,4値のASKをしたものを組み合わせたものと考えることができます.cos 成分とsin 成分は直交関係にあります.だから直交振幅変調と呼ばれるのです.シンボルとビットの対応は4ビットのグレイ符号になっています.ユークリッド距離が最小となるのは,あるシンボルに対して上下左右に位置するシンボルです.これらはすべてハミング距離が1となる関係になっています.また,'0000' のシンボルは(前回の説明のとおり)別にこの場所でなくても構いません.
- 何故,復調性能が FSK > ASK なのか
- 一応,講義内で説明しましたが,その先の内容は学部レベルの知識を超えた内容になります.本当に知りたければ,質問フォームから連絡ください.
第7回
- なぜ信号x(t)の時間平均と集合平均が等しくなるのか/エルゴード過程
- この質問は何か誤解していると思います.エルゴード過程とは,あくまで定義です.時間平均と集合平均が等しくなるような性質をエルゴード性と呼び,そのような性質を満たす過程(変数)をエルゴード過程と呼びます.全ての信号で時間平均と集合平均が等しくなるわけではありません.
- AWGN信号はエルゴード性を満たす信号であることが統計的に調べて分かったということです.
- AWGNの式
- AWGNとは電子機器ではどこにでも存在するランダムに変動する信号です.ランダム信号は文字通りランダムなので,通常中身を式で一意に表わすことができません.
- ところで,一般に変調された搬送波信号は,周波数 fc [Hz] を中心にある広がり(帯域幅)をもった信号です.通信で扱う狭帯域AWGN信号も fc [Hz] を中心に一定の電力をもつ信号です.したがって,狭帯域AWGNも変調された信号と同じような形式で表わせるのでは?という視点で考えた数学的モデルがスライドの式です.実際,ランダム変動する包絡線の成分を作れば,AWGNの性質を持った信号を作ることができます.
- 電力比
- 電力比の何が分からないのでしょう?文字通り電力の比です.
- 信号と雑音の場合,その比が1/10程度の場合を扱うときもあれば,数百億倍程度の領域を扱うこともあります.その際,全部の桁を書くのは非常に見づらいし面倒ですが,対数をとってデシベル表示すれば,2, 3桁程度で全部の範囲をカバーできます.(-10〜100 [dB])ですからデシベルを使うのです.
- CNRのRとは?
- おそらくスライドの14ページを見て言っているのだと思いますが,11ページを見てください.R は rate の略です.
- CN比,SN比,Eb/N0
- どれも信号の成分と雑音の成分の比を扱っているものです.分子が信号成分,分母が雑音成分ですから,値が大きくなれば,品質が良いことになります.
- CN比は搬送波を変調した後の送信波形の状態での,信号電力と雑音電力の比です.
- 一方,受信した信号はその波形のままでは判定できませんので,復調の操作を行います.復調のところでやったように,基本的にはなんらかの直流電圧値に変換して判定します.
- 当然,雑音も復調器に入力されるので,復調器からは雑音が別の信号に変換された形で出力されます.通信におけるSN比は厳密には,この判定時点での信号成分と雑音成分の電力の比を指します.
- ところが,信号と雑音は分けられないため,このSN比は測定が難しいです.(区別できるなら,雑音だけを取り除けることになり,誤りゼロにできてしまう.)ですから,一般的にはCN比を考えます.これをSN比と呼んでしまっては駄目です,ということです.
- 次に例えば,送信電力 10 [mW] などと電力が同じ状況でも変調多値数が異なる場合,同一時間の中に含まれるビット数が異なります.ですから,異なる多値数や変調方式を比較するような場合,送信電力だけ見ても公平な比較にならない場合があります.ですから中に含まれるビットが持っているエネルギーに着目して比較することにしたのです.後は電力をビットエネルギーに変換するとき,雑音電力も同じ形式で変換しないと比が計算できません.変換されたものが雑音電力スペクトル密度になったというだけです.次の質問も関連します.
- CN比は現実的にどのくらいの値を達成できますか?
- AWGN電力はほぼ一定なので,信号電力をどんどん大きくすれば,どのくらいでも達成できます.質問の意図が違いますか?
- では,どのくらいのCN比が達成されれば現実的な通信が行えるかを考えましょう.スライドの16と19ページで簡単に見積もることができます.音声信号を送りたいのであれば,4e-6 以下のビット誤り率にする必要があります.変調方式が BPSKであれば,10 [dB] 程度,QPSK であれば,13 [dB] あれば達成できます.(QPSKが13 [dB] になる理由は自分で考えてください.14ページそのままですけれども.)ですから,BPSKとQPSKは同じEb/N0のときにBERは同じになるのですが,そのときのCN比(すなわち送信電力)は異なることに注意しましょう.
- ただし,上記は信号を劣化させる要因がAWGNであるとき限定です.実際には,次回の講義のように別の劣化の要因が加わりますし,11, 12回目の講義内容のように改善の要因も加わります.高速通信をしたいのであれば,CNR = 40 [dB] くらいは必要でしょう.
- ビット誤り率が分からない
- 文字通り,ビット判定を誤る割合です.それ以外の理解の仕方はないと思いますけれども..何が分からないのでしょうか?
- 100ビットのデータを送って2ビットの判定誤りがあれば,ビット誤り率は1/50ですし,1億ビット送って1ビットの判定誤りがあれば,1/100000000 です.でもこれだと桁数を数えないと分かりづらいです.したがって指数形式で書いているだけです.1e-9 と書けば間違えにくいでしょう?
- ビット誤り率の原因
- ビット判定を誤る原因を質問しているのですか?第2回講義で示しました.今回,次回の内容も原因です.それ以外が知りたいのであれば,日本語の能力が不足している(質問の意図が分からない)としか言えません.
- 確率が決定される要因
- これは16ページの検知限のことですか?確率は決定するものではありません.結果論ですから.それに,実際に表に示したBER値を超えると人が検知できてしまうのにそれを目安にしない理由がありますか?誤り率はゼロにはできないのです.
- 最後に出した課題は,BPSKとQPSKのビット誤り率(bit error rate: BER)が等しくなる理由でした.この問題は以前,講義内で演習として行っていましたが,そのときは比較的正答者が多かったです.みなさんはできましたでしょうか.解答の仕方は何通りもあると思います.以下は言葉は足りませんが,正しく理解した上で書いているのであれば正答といえるでしょう(ただし,本ページを公開したので,以降はこれだけでは不正解です.).
- QPSKは二つのBPSKであるから
- 縦軸方向と横軸方向の誤り率が同じだから
- 以下は正しく理解している人だと思います.
- BPSKは2値なので,信号点配置図において左右方向でしか誤りが起きず,上下方向は関係ない.一方,QPSKは4値なので,上下左右で誤りが起こる.しかし,上下方向,左右方向ともユークリッド距離が等しいので,左右のビットの誤り率も上下のビットの誤り率も等しくなる.
- ただし,比較的多かった以下の解答は間違いです.
- グレイ符号化していると,隣接するシンボルへの誤りがおきても1ビットしか誤りがないため
- グレイ符号は必要条件ですが,十分条件ではありません.グレイ符号化されていれば良いのであれば,8PSKとBPSKだって同じBERになることになってしまいます.
- 私から別の解答例を二つ示しましょう.
- グレイ符号化されたQPSKでは,下位ビットは実数領域(同相成分)でのBPSK,上位ビットでは複素領域(直交成分)でのBPSKとなります.前回講義の回答にも書きましたが,4値PSKでは,実数領域と複素領域でそれぞれBPSK復調をすることでビットを復元できます.したがって,全体のBERは,実数領域のBERと複素領域のBERの平均値として得られます.実数領域,複素領域ともそれぞれの信号点のユークリッド距離は等しいので,等しいBERとなり,その平均値はBPSKのBERと同じになります.
- QPSKは,B cos(ωt + 0),B cos(ωt + π) のBPSK(下位ビット)と,B cos(ωt + π/2),B cos(ωt + 3π/2) のBPSK(上位ビット)を組み合わせた(同時に送る)ものと考えることができ(ただし,B = A/√2),ビットの判定はそれぞれのBPSKで単独に行います.ですから,平均値をとるとBPSKのBERと等しくなります.
- 以上のような解答で理解できましたでしょうか.どれか一つで理解できれば良いと思います.
- ただし,一つ注意が必要なのは,BPSKとQPSKをシンボル誤り率(SER)で比較すると,この両者には違いがあります.当然,判定領域の狭くなるQPSKの方が悪いです.ただし,シンボルは誤ってもグレイ符号化のおかげで1ビットは救えるので,やはりBERは同じになります.
第8回
- いきなりですが,設問のコーナーにある「フェージング通信路におけるPSK信号の復調で必要な操作」について自分なりの解答を用意してみてください.おそらく最も多い間違いは,ダイバーシティ受信を使う趣旨の解答だと思います.
- ダイバーシティは,瞬時の電力の落ち込みを防ぐには有効(見かけのCNRを改善するため)ですが,位相の変動に対しては何もしないので,このままでは正しく復調できません.
- 次の解答はある意味正解です.
- 遅延検波で復調する.
- ただし,遅延検波は純粋なPSK変調方式ではできません.差動符号化PSKという変調方式にする必要があります.これに関してはここではこれ以上触れません.
- また,以下の二つに類する解答は趣旨は正解です.
- 位相の同期をとる
- 基準信号を送り,位相の基準を取り直しながら受信する.
- 解説をする前に,フェージングについて理解できてない(フェージングによる信号点の変動,フェージングの速さ等も含む)旨の質問があったので,そちらから説明します.
- まずは,この図を見てください.この図は,フェージングを単純化して表したものです.フェージングは複数の遅延した受信信号が合成されることにより生じます.図の1段目ではBPSK信号の二つある信号点のうち,0 [rad] の位置のシンボルを4シンボル送っています.シンボルの切り替わり(すなわちシンボル時間)は,1 [sec] とし,図中の矢印の点でシンボルを判定します.
- 直接波(1段目)と遅延波(2段目)が1波ずつ受信機に到着し,受信機が結果的に受信する信号はそれらが足し合わされたもの(3段目)となります.3段目の波形を見ると山の間隔が広がったり(位相の回転速度が遅くなる),狭まったり(位相の回転速度が速くなる)していることが確認できます.これにより矢印の判定点における位相もシンボル毎に変化しています.これが信号点配置における位相の変動になります.また,1シンボル当たり,どのくらい位相が変化するのかを表わす量がフェージングの速さということになります.
- 一方,このような位相の変動により,振幅の変動も起きています.実際の受信信号は,この例のように一つの遅延波だけということはなく無数に存在します.従って,急激な電力変動が生じます.これがフェージング現象です.この現象の統計的な性質を調べると,都市部では,振幅値がレイリー分布に従うため,レイリーフェージングと呼ばれています.
- 上記を踏まえてPSKの受信について解説します.
- 復調の操作を思い出してください.PSKに限らず同期検波では,受信信号における搬送波に対して周波数と位相が一致している正弦波を乗算する必要があります.
- 従って,フェージングの影響を受けたPSK信号を復調するには,搬送波の位相変動に追随した正弦波を用意しないといけません(振幅は必ずしも追随しなくてよい).
- これが上記の解答における位相の同期をとる,という操作になります.
- また,それを具体的に行う方法としてはいくつもありますが,その一つに,送受信機でお互いに知っている基準となる正弦波信号を定期的に送信する方法があります.こうすることで,基準からの位相のずれを検知することができます.検知された位相分だけ,受信機内の正弦波の位相を戻すことで同期をとることができます.
- 今回は移動していることが前提だったようであるが,静止している場合は損失が減るのか?
- フェージングが生じる移動とは,そんなに大げさなものでなく,立っている向きが変わるとか,1,2歩程度歩くような移動でもフェージングは生じます.静止していても複数の経路(マルチパス)は存在するからです.さらには,自分自身が動かなくても,周りにある反射物(車や電車等)が動く場合もあります.しかし,フェージングの速さは非常に遅くなるため補正は容易になります.補正がし易くなるという点では,特性は良くなる場合がありますが,フェージングによる受信特性の劣化(そもそも損失とは呼ばない)自体が減っているかというと,大して変わりません.スライドで示したビット誤り率特性図は,補正(位相の同期)が完璧に行えた場合の限界値ですので,これより良くなることはありません.
- マルチパスフェージングに対するダイバーシティ受信のように,シャドウイングを抑える方法があるのか.
- マルチパスによるフェージングもシャドウイングも結果的に生じる問題は振幅と位相の変動で同じです.その変化の仕方が緩やかかどうかでの違いでしかありません.したがって,対処法も同じになります.
第9回
- ハードハンドオフ,ソフトハンドオフを誤解している人がいると困るので,再確認しておきましょう.まずは次の質問に回答します.
- ハンドオフを行うことの利点とは?
- 講義で何度も触れてきたように,携帯電話が直接通信している相手は最寄りの基地局です.電波は届く距離に限界があるため,端末をもったユーザが通話をしたまま移動した場合,通信をする基地局を切り替えないといけません.
- ハンドオフをしなかった場合,移動により受信電力が弱くなった場合には通話がすぐに終了してしまいます.ユーザはその度に電話をかけ直さないといけません.これが新幹線のように時速300km/hの速度で移動するような場合には,秒単位でエリアが変わるので,通話の呼び出し時間のうちにエリアが変わり,通話が開始できない状態になってしまいます.
- ハンドオフはそれをすると利点になるというレベルの話ではなく,それがなくては通話を維持できないのです.
- その上でハードハンドオフとソフトハンドオフの違いです.
- 上記のように携帯電話は,基地局と通信します.このときハードハンドオフでは,セルの境界付近にいても,データの送受信をしている相手の基地局は一つのみです.この場合のハードという言葉は,白黒はっきりさせるとか,”0” と "1" をはっきりさせるというような意味で使われています.
- 一方,ソフトハンドオフでは,セルの境界付近では,一度に複数の基地局と(同じ内容の)データのやり取りをします.ですから,一つの基地局からの受信電力が弱くなって切れそうになっても,別の基地局からもデータが受信できていれば,通信が維持できることになります.この場合のソフトとは,柔軟なとか,"0" と "1" をはっきりさせないというような意味で使われています.
- 以上を踏まえると,ソフトハンドオフをするには,同時に複数の基地局と通信ができることが前提になります.したがってソフトハンドオフを単に以下のような技術と捉えるのは,間違っています(理由は括弧内)
- エリアを重複させる(もともとセルの境界付近では重複しています.重複が全くないと,別の(移動先の)基地局と通信が確立できないまま,隣のセルに入ることになり,その地点で通話が切れてしまいます.)
- 同一周波数にする(これはCDMAによって実現できることであり,ソフトハンドオフがもたらすものではありません.CDMA以外では重複エリアで同じ周波数を使ってしまうと混信が起きて,通信が成立しません.同期検波のための同期もとれなくなります.そのためにセル毎に周波数を変える必要があります.)
- 基地局を沢山用意する,または,セルを小さくする(沢山あるとハンドオフ頻度が増えるだけであり,ソフトかハードかには直接関係しません.)
- 多元接続が分からない
- 定義なので,授業で説明した以上のことはないのですが,どの部分が不明なのでしょうか?上り通信で複数のユーザが一つの基地局やサーバに同時にアクセスする方法のことを多元接続と呼びます.
- TDMAの仕組み
- どの部分を知りたいのでしょうか?具体的な手順は学部の講義の範囲を超えているので,もともと概念しか説明していません.
- 携帯電話などでは,ユーザが使うチャネル(周波数やタイムスロット等)の割り当てを決めるのは基地局です.基地局がユーザ端末に対して,この周波数をこのタイミングで使いなさいと指示をだし,端末はそれに従って,与えられたチャネルを使って送受信を行うだけです.
- ゾーン構成
- 一つの基地局が同時に扱えるユーザ数には限界があります.過疎地域では,エリアを大きくしても問題ないし,密集地域ではエリアを小さくしないと,ユーザを多く収容できません.
- IS-95やWCDMAとは何か?
- AMPSやPDCは分かったのに,上記だけ分からないのですか?不思議です.
- これらはCDMAを使った携帯電話通信規格の名称です.
- ちなみに,IS-95は第2.5世代方式と呼ばれ,日本ではIDOとDDIセルラーグループ(現au)が「cdmaOne」の名称でサービスしていました.一方,WCDMAは第3世代方式と呼ばれ,NTTドコモが「FOMA」の名称で,ソフトバンクモバイルが「Softbank 3G」の名称でサービスしています.また,auの第3世代方式は,CDMA2000 という規格であり,サービス名称は「CDMA 1x」です.
- その後,第3.5世代の運用が始まり,NTTドコモ,ソフトバンクモバイルは,HSPAという規格を使い,それぞれのサービス名称は「FOMAハイスピード」「3G ハイスピード」です.一方,auはCDMA2000 1x EV-DOという規格を使い,「CDMA 1X WIN」の名称でサービスしています.
- 2010年以降,各社ともLTEと呼ばれる第3.9世代規格を利用した移動機を採用しており,NTTドコモ,au,ソフトバンクそれぞれが「Xi」「au 4G LTE」「SoftBank 4G LTE」の名称でエリア展開しています.
- 2015年3月よりNTTドコモが第4世代規格(LTE Advanced)を「Premium 4G」の名称でサービスしています.
- 4セル繰り返し配置に関して,周波数利用効率が1/4になるとは?
- そもそも周波数利用効率とは?
- まとめて回答します.周波数利用効率とは,文字通り周波数を利用する際の効率です.具体的には,同一面積の中で単位周波数あたり,どのくらいのユーザ数を収容できるかを示す指標と考えても良いです.FDMAやTDMAでは,セル毎に周波数帯域を変える必要があります.例えば,ある通信会社に全部で8MHzの帯域が付与されたとしましょう.4セル繰り返しでセルを設計する場合,セル一つあたりに2MHzの帯域を割り振り,繰り返して使うことになります.仮に一つの基地局が2MHzの帯域の中で10人のユーザを同時に扱えるとすると.その場合,4セル分では40人のユーザを収容できることになります.
- 一方,CDMAでは,全てのセルで同一の周波数帯域を使えます.どのセルでも,8MHz全部が使えます.であれば,一つのセルで40人を収容でき,4セル分では160人のユーザを収容できます.これらを比べれば,FDMAやTDMAでは1/4になっていますね.ただし,実際にはそこまで単純な計算では求まりません.
- 以上で回答になりましたでしょうか.さらに分からないことがあれば,質問フォームより質問してください.
第10回
- FH方式で多元接続を実現する方法が良くわからない.
- 多元接続とは,複数のユーザが同時に基地局にアクセスするための手法です.FHを使って複数のユーザを共存させるには,それぞれのユーザが異なるホッピングパターン(搬送波周波数切り換えパターン)を使って,同時に同一の周波数にならないようにする必要があります.このとき,ホッピングパターンは符号系列によって決まるため,この方式の多元接続はやはりCDMAと呼ぶことになります.(厳密には,直接拡散によるCDMAをDS-CDMA,周波数ホッピングによるCDMAをFH-CDMAと呼びます.)
- ところで,同時に同一の周波数にならないように切り替えるのが最適ですが,ユーザが増えてくると衝突が起こることも考慮する必要があります.FHには高速FHと低速FHの2種類あります.
- 高速FHでは,1シンボルの間に搬送波が複数の周波数にホッピングし,低速FHの場合は,1シンボルの間には搬送波周波数が切り替わりません.高速FHにすることで,ある周波数で衝突が起こっても,別の周波数においても同一のシンボルが復調できるため,ある程度の衝突を許容できることになります.
- もし干渉波が拡散されたスペクトルと同じ大きさをもっていた場合,元の波形は崩れないのであろうか.
- 日本語が曖昧すぎます.大きさというのが帯域幅なのか電力なのかによって変わってきます.
- 質問の趣旨が,干渉波が拡散された希望信号のスペクトルと同程度の帯域幅をもっていた場合,希望信号は正しく取り出せるかということであれば,良い質問です.
- 電力が小さければ可能ですし,大きければ無理でしょう.
- FH方式の利点/FHで干渉に対する耐性がある理由
- スペクトル拡散通信としての利点はDS方式もFH方式も大差ありません(性能は違いますが).
- 干渉(妨害)信号があっても,その周波数で信号を送信するのはほんのわずかな時間だけですので,他の周波数の信号が正しく復調できれば,干渉を受けて正しく復調できなかった部分も訂正して利用できます.
- 広帯域の干渉に弱いのはFHも同様です.
- ただし,FHの場合,秘匿性(信号の存在そのものを隠すこと)はないでしょう.
- スライド p.13 のスペクトル図の見方が良くわからなかった.
- p.12のスライドと関係があります.p.12では,ビット時間を Tb としてチップ時間を Tcと表しています.p.13 における fb = 1/Tb ,fc = 1/Tc になっており,パルス幅と帯域幅の関係を概念で示しました.
- スライド p.15 の高速通信ができる/できないの話が良くわからなかった.
- 第二世代(TDMA)と第三世代(CDMA)の携帯電話では,収容できるユーザ数の違いだけでなく,通信速度にも大きな差があります.第二世代では96 [kbps] でしたが,第三世代の通信速度は,3.4 [Mbps] でした.
- ですから,CDMAにすること(すなわち,スペクトル拡散通信を利用すること)で高速通信を実現できると誤解して欲しくない,ということで説明しました.
- 拡散の操作は,元の情報のデータレートを変更しませんので,元々のデータレートが速くないと高速通信にはなりません,という意味です.
- ただし,符号に余裕があるのであれば,一人のユーザが複数の符号を使って複数のデータを多重化して送ることは可能(DS方式のみ)です.その場合,使った符号数倍の高速化はできます(その分,同時にアクセス可能なユーザ数は減ります).
- SS通信による秘話性について詳しく知りたい.
- DS方式の信号を傍受しようとした場合,使っている符号を知らないと逆拡散できません.携帯電話で使われている符号は系列の長さが数千チップあり,系列の種類も数千種類あるため,簡単に特定することができません.また,特定できたとしても,タイミングが一致しないとやはり逆拡散できません.さらに仮に逆拡散ができたとしても,使われている変調方式を知らないと復調ができません.変調方式も一種類ではなく,状況に応じて(時間や場所に応じて)変化します.ですから,通常傍受は不可能です.
- FH方式も基本は同じです.符号の種類,符号とホッピングパターンの対応関係,ホッピングのタイミング,変調方式を知らないと復調できません.
- IEEE 802.11 と Bluetooth の違い.
- これらの何の違いを知りたいのでしょうか.どちらも同じ周波数帯(ISMバンドといって,小電力であれば,免許不要で使える 2.4 GHz 付近の帯域です.)を使う通信方式であり,IEEE 802.11 は無線LAN 規格,Bluetooth は短距離通信システムの規格です.
- 同じ周波数を使うので,お互いの干渉を小さくするために,無線LAN では DS-SS 方式,Bluetooth は FH-SS方式を使っていました.(現在はどちらも違う方式が普及しています.)
- 第3世代通信方式であるCDMAではなく,auはCDMA x1 (正しくは CDMA 1x)という通信方式を採用しているがこれはなぜか?
- 質問の意図がよく分かりません.ちなみに,CDMA は通信方式の名前ではなく,多元接続方式の名前です.また,CDMA 1x というのは,au のサービスのブランド名であり,これも通信方式の名前ではありません.
- au はなぜ,NTT DoCoMo と Softbank mobile が採用しているWCDMAでなく,CDMA2000 を採用しているのか,という意味でしょうか.
- 13回目か最後の授業で話をするかもしれませんが,企業競争の中で単に日本で最初のCDMAのサービスを開始し,アピールしたかったのだと思います.そのため,独自開発ではなく,アメリカの方式をそのまま買ってきて日本で最初にCDMA方式の運用を開始しました.そして,その後もアメリカ方式を採用していたということだと思います.でないと,設備を全て入れ替えないといけなくなりますので..ただし,現在普及している第3.9世代に関しては,DoCoMo,au,SoftbankともLTEという共通の方式を使っています.
- 搬送波周波数の切り換えパターン例のところが良くわからなかった.
- 図から読み取れる情報以外の意味はないのですが,どの点が分からないのでしょう?
- 単にこんな風に周波数を変えますよという一例でしかありません.ただし,符号を使ってホッピングパターンが決まるので,パターンは繰り返しがあります.
- 図中では,繰り返しの部分が読み取れます.
- 多重化により合成することができる周波数の数に限りはあるか.
- 日本語が論理的に正しくないので,何を聞きたいのかが不明です.
- 多重化により合成できる信号の数ということでしょうか?
- 最大でも用意できる符号のパターン数までしか多重化できません.
- DSもFHもどうやって拡散信号の同期をとるのか?
- 学部を優に超えるレベルの内容ですが,本当に知りたいですか?授業をしたら,それだけで4回分は必要でしょう.個人で買えるレベルの本ではないですが,図書館にはこの本が置いてあります.読んでみてはいかがでしょうか?
第11回
- 今回の課題は,3重繰り返し符号と4重繰り返し符号を比較し,誤り訂正能力の観点から望ましい方を理由とともに述べる問題でした.
- 3重繰り返し符号(dmin = 3)は,2ビットの誤りが検出可能であり,1ビットの誤りが訂正可能(⎿1⏌)です.一方,4重繰り返し符号(dmin = 4)では,3ビットの誤りが検出可能で,1ビットの誤りが訂正可能(⎿1.5⏌)です.したがって,各符号内の訂正可能なビット数に関してだけ言えば,この二つの符号は同じになります.
- しかし,これを理由に「誤り訂正能力はどちらも同じ」と述べて解答を終える人は,問題(日本語)を正しく読めていません.本当に誤り訂正能力は同じですか?符号内の訂正可能なビット数が等しいだけで,訂正能力は等しくありません.
- 3重繰り返し符号で,1ビットの誤りが訂正可能ということは,ビット誤り率が1/3まで許容(訂正)できることになります.一方,4重繰り返し符号では,ビット誤り率が1/4までしか許容(訂正)できません.どちらが誤り訂正能力が高いでしょうか.答えは,3重繰り返し符号になります.
- 3重繰り返し符号の符号化率は 1/3 であり,4重繰り返し符号の符号化率は 1/4 です.仮に同じ訂正能力であれば,付加するビットが少ない(符号化率が大きい)方が望ましいことになります.同じ伝送速度なら短時間で伝送が終わりますし,同じビット誤り率なら,誤りが生じるビット数も全体的に減ります.よって,その場合でも3重繰り返し符号が望ましいということになります.
- よく勘違いされる解答は,誤り検出能力が4重繰り返し符号の方が高いため,4重繰り返し符号が望ましいとの解答です.これも全然論理的ではありません.問題を正しく読めていないことになります.誤り制御には,大別してARQとFECの2種類があることは講義で述べました.ARQを使うなら誤り検出能力が高い方が良いですが,FECの場合,検出ができても判定を誤る可能性は残ったままです.質問では誤り訂正の観点からと書いていますので,検出能力が高いことは優位になりません.
- 日頃から言葉を正しく認識して使うようにしましょう.
- 4重繰り返し符号の場合,1 と 0 の数が同じで受信される場合がある.その場合どのように判定すればよいのか?(多数決判定は機能しないのではないか?)
- 数人から上記のような質問がありました.さらに,多数決判定ができないことを理由に3重繰り返し符号が望ましいという解答の人もときどきいます.
- では逆に問いますが,3重繰り返し符号で多数決判定をすると,必ず正しい訂正ができますか?
- 今,仮に '000' を送って '110' が受信されたとします.判定は '1' となりますね?多数決判定をしたって判定誤りを起こす場合はあるのです.あくまで誤りの検出ができるにすぎません.
- であれば,4重繰り返し符号で '0000' を送って '1100' が受信された場合,どうすればよいでしょう.どのみち正しい訂正は1ビットの誤りまでしかできないのですから,2ビットの誤りがある場合,判定のルールは自分で決めればよいのです.例えば,ランダムに '0' '1' を決めるでもよいですし,必ず '0' と判定するでも構わないでしょう.どちらにしても,判定が正しいのは五分五分です.
- ハミング距離
- どの部分が分からないのか不明です.スライドに記載の定義そのままでしかありません.
- パリティ検査符号について(なぜ符号化率が3/4?)
- パリティ検査符号の符号語サイズは必要とされる検出能力に応じて決めるものですから,スライドp.12のように必ず符号化率が 3/4 になる訳ではありません.2ビット毎に1ビットのパリティを付加する(11ページ)なら,符号化率は 2/3 ですし,12ページでは3ビット毎に1ビットのパリティを付加しているので,符号化率は 3/4 となっています.当然のことながら,符号化率を変えれば誤り検出能力が変わります.